あなたの知らないアスベスト分析の世界。ツールのこだわりが高精度な分析を実現する
- ktakano84
- 5月27日
- 読了時間: 9分
更新日:1 日前
こんにちは、EFAラボラトリーズ分析部の吉木です。
”弘法筆を選ばず”という言葉がありますが、アスベスト分析の世界ではどうなのでしょうか?
EFAラボラトリーズでは間違った分析結果によって発生したトラブル案件の依頼を受けたり、他社の分析結果が正しいかの確認分析の案件を何度も受けてきました。
アスベスト分析会社の中には分析精度の悪い会社、良い会社、ピンキリあると感じます。
EFAラボラトリーズではアスベスト分析にどんな道具を使っていて、それによっていかに高精度な分析が実現できているのか、普段の生活ではまず触れることのないであろう、アスベスト分析の世界の一端をご紹介したいと思います。

EFAラボラトリーズが採用している分析法、JIS A 1481-1 (国際規格であるISO 22262-1を日本語化したもので、世界的に標準的に用いられている分析法) では偏光顕微鏡という顕微鏡をメインで使い、薄く処理した試料をスライドグラスに乗せて観察するのですが、今回紹介する道具というのは顕微鏡のような大きな機器ではなく、ピンセットやライターなど比較的小さな道具達のことを指します。
”神は細部に宿る”と言うように (分析は作品ではありませんが) 、その小さな一つ一つに高い分析精度の一端が隠されているように感じます。
では早速見ていきましょう。
・ピンセット

まずご紹介するのはこちらの”ピンセット”です。
ピンセットは分析する際に一番扱う時間の長い道具になります。
試料を袋から取り出すところに始まり、試料をつまんで全方向、全角度から観察し、試料を潰す、ほぐす、適量を分取してスライドグラスに乗せるなど、試料の観察や層分け (試料は各層ごとに分けて分析しています) 、顕微鏡観察用のスライドを作る工程のほとんどで使用する、分析者にとっては相棒のような存在です。
と言いつつ相棒と思っているのは私だけかもしれませんが、それくらい分析精度や分析スピードに直結する重要な道具だということです。
EFAラボラトリーズの分析部で使用するピンセットのスペック
名称
MEISTER ピンセット
スペック
全長:118mm
材質:AXAL(強力耐久型クロム・コバルト・モリブテン合金)
ビッカース硬度:500以上(耐摩耗性に優れる)
磁性:非磁性(磁界中においても100%磁化しない)
ハンダの付着:付着しない
耐熱温度:-269~500℃ (材質の変質が発生しない目安の温度)
腐食性:100%腐食せずに錆びない
生産国:スイス
形状:先端が緩やかにカーブし鋭利で、細かな作業に適している
価格
約15,000円/本
*通販サイトより抜粋
価格高すぎませんか?
初めて聞いたときは結構驚きました。手が震えた。
ですが、このピンセットの使いやすさは他の安価なピンセットを使う機会があった時に身にしみて分かりました。

こちらの画像の上が安価なピンセット、下がMEISTERピンセットです。
一目瞭然ですが安価なピンセットの方は錆びてしまっています。
安価なピンセットは1年ほどしか経っていませんが、MEISTERピンセットは少なくとも現在3年以上使っていますが綺麗なボディーを保っています。
また、安価なピンセットは先端が太く細かな作業がやりづらい上に強度も弱いです (先端が曲がったりする) 。
使ってみると雲泥の差だと感じますよ。
MEISTERピンセットは細かいところまで観察しやすいので分析精度や分析スピードにも関わってくるのが分かります。
購入したタイミング (足りなくなり買い足したなど) によって、同じものの在庫が無かったりして違うピンセットを使っている分析者もいますが、そのピンセットもMEISTERピンセットと同等な高精度のものを注文して使っています。
・ライター

続いてご紹介するのはこちらの”ライター”です。
分析の何処にライターを使うのか疑問に思った方もいるかもしれません。ばりばり使います。
アスベストは鉱物でありながら繊維質なのですが、試料となる建材にはアスベスト以外にも様々な繊維が入っており、アスベストとそれ以外の繊維が入り混じっていると邪魔をして見づらく顕微鏡でアスベストを見つけるのが困難です。
例えば、アスベスト以外の繊維で多いのがセルロースや合成繊維です。
セルロースは分かりやすく言うと細かい紙の繊維で、身近なもので言えばティッシュペーパーの繊維です。
合成繊維は沢山の種類があるのですが、身近なもので言うとナイロンやポリエステルなどで、皆様もよく衣服などで見たことがあると思います。
お気付きの通り、セルロースや合成繊維は簡単に燃えます。
つまりライターを使ってセルロースや合成繊維を燃やしてしまうことでアスベストを見つけやすくするのです。
そこでアスベストを疑われる繊維が見つかれば、改めてスライドを作って本当にその繊維がアスベストなのかを確認します。
EFAラボラトリーズの分析部で使用するライターのスペック
名称
SOTO 強力耐風ガスバーナー マイクロトーチ ACTIVE (アクティブ)
スペック
本体寸法:(幅W×奥行D×高さH) (mm) 50×19×90
質量:40g
点火方式:圧電着火方式
火炎温度:1300℃
充てんガス:1.2g/h
ガス消費量 (g/h):7
価格
約2,500円/本
*通販サイトより抜粋
ライターと言っておきながら、簡単に言えば小さなガスバーナーです (それをライターと言うのでしょうか?) 。
以前は充填式の安価なライターを使っていたのですが、安価だからなのか、充填してもすぐに火が出なくなりほとんど使い捨てのような感じでした。
ですがそれだとゴミを増やしてしまい環境にもよくなく、度々使えなくなると分析のテンポも落ちていまい作業効率も悪くなるので、長く使えるしっかりとしたライターに変えました。
たかだかライターと言えども、うまくセルロースや合成繊維を燃やせていないと顕微鏡観察がうまくいかず、アスベストを見落とすことになりかねません。
こちらも分析には欠かせない重要な道具の一つと言えます。
・ホットプレート

最後にご紹介するのはこちらの”ホットプレート”です。
通販ではありません。こちらもれっきとした分析道具の一つです。
顕微鏡観察でうまく観察するには、顕微鏡の光を透過させる必要があります。
そのため、建材を砕いたりほぐしたりしてできるだけ薄くしてスライドを作るのですが、建材の中には薄くするのに苦労するものが存在します。
それがビニル床タイルであったり、長尺シートといった床材などに多いのですが、実はこれらの多くが浸液 (分析に用いる液体) に浸した状態で温めると溶ける性質を持っています。
溶かすことで光が透過し、断然見やすくなります。
また、浸液はオイルなので水に濡れている試料には浸透せず、アスベストの屈折率が判断できません。そんなときホットプレートで試料を乾かすことで屈折率を判断できるようになります。
ここでは詳しく書きませんが、JIS A 1481-1の分析法において屈折率はアスベスト同定に必要不可欠な非常に重要な要素なので、それを判断するためにもこのホットプレートが大切なのです。
温めるだけなら先に紹介したライターでよくない?、と思うかもしれませんが、床材などを溶かしている間に別の作業を進められるというメリットが非常に大きく、溶かす、乾かす、作業効率など様々な場面で活躍するホットプレートもまた非常に重要な道具なのです。
EFAラボラトリーズつくばラボで使用するホットプレートのスペック
名称
ホットプレート HHP-140D
スペック
最高温度:250℃
天板サイズ:140×140mm
天板材質:アルミニウム
デジタル
温度制御方式:PID制御
温度設定単位:10℃
ヒーター容量:180W
天板材質:アルミニウム
材質:本体/ステンレス(SUS304)・スチール(SPCC)
安全装置:過電流ヒューズ・内部温度ヒューズ・高温警告表示機能
電源:AC100V 50/60Hz
本体サイズ:160×185×115mm
重量:2kg
価格
約44,000円/台
*通販サイトより抜粋
こちらも結構いいお値段となっております。
実はホットプレートの設定温度は分析者の好みによって違い、だいたい100℃前後に設定している人が多い印象です。
早く溶かしたい人は温度を上げる傾向にあり、反対に安全面を考慮して高くしすぎない人など、使いながら自分に合ったスタイルを確立しているように思います。
ちなみに、EFAラボラトリーズでは現在神保町とつくばに拠点があり、ホットプレートは神保町ラボとつくばラボで違います。これはつくばラボが後からできたため購入時期に差があるからです。
今回は私がつくばラボに籍を置いているため、つくばラボで使用しているホットプレートをご紹介しました。
いかがだったでしょうか?
EFAの精度へのこだわりが道具選びにも反映されているのが分かっていただけたと思います。
分析に使用する道具は他にも沢山あるのですが、今回は高精度で分析するために重要な3つをピックアップしてご紹介させていただきました。
アスベスト分析ではお客様が分析結果のレポートを見てもそれが本当に正しい結果なのかどうか、お客様自身には判断ができず、ある意味信用によって成り立っていると思います。
そういう性質上、精度の高くない分析者や分析会社があったとしてもお客様が気づくことは非常に難しいです。
これは私の思いですが、一番大切なのは正しい分析とサービスをして、一人でも多くの未来のアスベスト被害者を減らすことだと思っています。
分析費用が安ければいいというだけの判断は危険で、間違った分析結果を鵜呑みにすれば解体現場の作業員の方々やその近隣住民の方々、それぞれのご家族、裁判など、多くの方を苦しめることになってしまいます。
”正しい分析結果を出すためのこだわりの道具について”の今回の記事が、皆様の”正しい分析会社を選定する目”を養う一助になれば幸いです。
EFAラボラトリーズでは1年以上に及ぶ分析者のトレーニングや分析道具一つ一つにもこだわり、JIS A 1481-1の分析法を日本に持ち込み、法律を正しい方向へと常に変えてきたEFAラボラトリーズだからこそできるグローバルなネットワークによる知識の共有、蓄積、勉強会など、その分析精度は日々アップグレードされています。
今回ご紹介した分析道具一つとっても、そのこだわり、その一端が伝わったのではないでしょうか?
伝わっていれば嬉しく思います!
〇ライター紹介
今回のライター:分析部 吉木
好きな和菓子:どら焼き
過去最大かもしれない戦い:道端でアオダイショウとばったり対峙したとき
過去最大レベルの恐怖:すっぽんがまあまあいる川で砂埃が舞い川の視界がゼロになった夏