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WindowsからMacへの移行というチャレンジ

  • ktakano84
  • 8月12日
  • 読了時間: 28分

更新日:8月13日



木製のデスクの上に置かれた、開いたMacBook Air。画面には森の風景の壁紙が表示されている。


はじめに


こんにちは。EFAラボラトリーズ、管理部の八木です。いわゆる「ひとり情シス」として業務を行っています。


EFAラボラトリーズ(以下、EFA)では社員の使用するPCをWindowsノートからMacbookへ2年かけて移行してきました。


以前、採用サイトに「Macに全面切り替えを決めた理由」というタイトルで記事を掲載したところ、予想以上にアクセスがあり、「Macを選択する」ということに対しての関心の高さが伺えました。


しかしながらその記事がMac移行による「メリット」に焦点を当てていたため、情報が少し偏った内容になってしまっていて「折角これだけの人がアクセスしてくれているのであれば、もう少し役立つ情報を載せて書き直したい」と考えていました。こういった記事を読んでくださる方は、おそらく「Macにするメリットがあるのは分かっているものの、自分が想定していないデメリットがあれば知りたい」と思っている方が多いと思います。そこで、今回記事の内容を見直し、新たにブログ記事として書き直すことにしました。


EFAの目指す情報システムインフラの方向性は「シンプルで効率的な運用」であり、WindowsノートPCからMacbookへ移行することがこの理念に合致している改善の一つであると考えて実行してきました。これはWindowsとMacのどちらが良いということではなく、EFAとしてMacを選択したということにすぎません。しかし、この選択は同時に「今までの環境が動作しなくなるリスク」を伴う挑戦でもありました。


この記事は、50名以下の中小企業の情シスやICTを担当している総務の方を読者として想定しています。皆様の中には、「Windowsで細かい制限設定をおこなっているのでMacでは会社で必要なセキュリティ要件を満たせない」とか、「使用しているシステムがWindowsにしか対応していない」とか、「取引先がWindowsを使っているのでMacにすると支障が出る」、といったように結論がでている方も多いとは思います。一方で、新しいものを使ってみたいとか、より環境が良くなるのであればやってみたいと思っている方もいらっしゃると思います。EFAのこれまでの試行錯誤を皆様に共有することで、一つの中小企業におけるケーススタディとして同じく奮闘しているひとり情シスの方に少しでも参考になる情報があれば幸いです。また、お取引先の皆様には、EFAの情報システムインフラに対する考え方と姿勢を知っていただき、弊社のサービスをご利用いただくきっかけになればと考えています。




背景:ノートPCを頑張って選定するという苦悩


私が2013年入社時に渡されたのは、起動までに10分ほどかかるDynabook(WindowsノートPC)でした。


環境コンサルタントとして入社した私は、地歴調査やアスベスト調査の結果をMicrosoft Wordの「図形」を使って頑張って作っていました。しかしレイヤー機能の乏しいWordの「図形」ツールを酷使することによる職人芸的な効率の悪さにストレスを感じていました(図形が意図せずずれたり、重なり順の調整に大幅な時間を要するなど)。そこで、図面作成等をスムーズに行うためにAdobeのillustratorの使用と、illustratorが動く程度のWindowsデスクトップPCを自作・設置を上司に懇願し、以後7年間その自作PCとともに業務を行ってきました。DynabookはというとHDDをSSDにつけかえて延命していたものの、出張時にはバッテリーがほぼ持たない状態でした。オフィスでは自作PCを、出張時にはノートPCを使うという2台持ちの状態でした。


その7年の間に社員は増え、調査結果の図をillustratorを使って作成することはEFAにおいて標準の調査結果報告方法となっていきました。illustratorを使う社員は、私が業務の合間に自作したPCやBTOのPCを使っていました。しかしながら、2020年ごろよりコロナ禍でリモートワークを余儀なくされ、流石に全社員デスクトップとノートの2台持ちにすることもできず、簡単に移動のできないデスクトップPCは選択肢から外れ、どこでも仕事ができる高性能なノートPCが必要となっていきました。その頃、環境コンサルタントだった私は「管理部」に部署異動となり、社内ICT担当者として「業務の一つとして」社員の使うPCを選定するようになりました。


illustoratorの使用ができるようにワークステーション型やグラフィックスボードのついたPCなどいくつかのWindowsノートPCを試しましたが、動作性能の劣化やバッテリーの劣化が早いこと、高価なわりに想定した性能がでない、故障が頻繁に発生し(同じモデルを購入した3人のPCは電源の端子が立て続けに壊れるなど)故障時の対応をどうするかといったような問題に直面していました。


ある社員のノートPCはIntel Core i7メモリ16GBのスペックでしたが、購入から1年経ったくらいでGoogleストリートビューがまともに見られなくなるという現象が起こり、「故障」なのか「スペック不足」なのか、何が原因がわからず、今後どのようにPCスペックを見積もれば良いか自信がなくなりつつありました。そして次第に、「恐らく不満が出るのだろう」とネガティブに考えながら他人の使うPCを限られた予算(とはいっても通常のオフィス向けPCの約2倍)の中でで選定するというのは、自作PCにお金を投じて性能拡張するのが好きだった私にとっては大変な苦行となっていきました(趣味を仕事にすると楽しくないという典型例です)。


ノートPCとデスクトップPCのCPUは別物であると漠然と理解はしていました。デスクトップPCでは大きなCPUファンがついていて、さらにグラフィックスボードも大型ヒートシンクがついていることはPCを自作したことがある方なら分かると思います。どう考えてもデスクトップと比較してノートPCの薄い筐体に同じ性能のCPUやGPUを載せられるわけがないのです。しかし、一般的にはCore i7やCore i9と言われたら「多分それなりに高性能なんだろう」と理解されがちです。これがノートPCを選ぶ時に生じる社内コミュニケーションの大きな壁となっていました。


さらにPC使用において重要なのは「メモリ管理」です。8GBのメモリしかないPCでもある程度の仕事はできるでしょう。ただし、それはユーザーが「使用しないアプリをこまめに消したり、Webブラウザのタブを開き過ぎたりしなければ」の話です。例えばWebブラウザでタブをいくつも開いているのは、Webブラウザを何個も立ち上げているのと同じ負荷がかかります。機器を選定する上でのセオリーは負荷量の平均値でなく最大値を見てゆとりのあるスペックを選択するということです。PCにおいてメモリは「あればあるだけ使う」ので、負荷量が最大値に達した途端に急にPCがフリーズするなどの現象に見舞われます。安いPCを上手く使いこなすには、ユーザー側の知識とPCの挙動を理解した使い方が不可欠なのです。




Macに切り替えようと思ったきっかけ:Apple Silicon Macbookとの出会い


私は2016年ごろにドローンを使った廃棄物調査などを行っていました。今ではプロポ(ドローンを操縦するコントローラーで、フライトの映像表示やドローンの設定変更に使う)にモニターが付属しているものも販売されているようですが、当時はiPadやAndroidタブレットをドローンに繋げてモニターとして使うのが一般的でした。私はドローンの資格取得のための講習会に参加していた際に、講師から「AndroidタブレットよりiPadの方が安定している」と勧められ、ドローンの操作画面用として初めてのApple製品であるiPad(iPad mini 4)に触れました。それからiPadを使っていくうちにiPad用の現地調査アプリを作りたいと個人的な興味が湧き、Windows歴12年にして初めてMacbook Pro 2019(Intel版Mac)を購入するに至りました。


以前PCでゲームをしていた私は、マウスカーソルの速度やキーボードショートカットなどに強いこだわりがあり、Windowsの操作感に極度に慣れていました。特にMacのマウスカーソルの加速度がWindowsと全く異なることに違和感を覚えました。加速度を調整するアプリなどを入れて対策を試みましたが、Macのマウスカーソルの移動速度が違和感なく使えるようになるまで半年以上かかりました。その他にもエクスプローラー(Finder)の挙動が違ったり、ショートカットが違ったりとつまずくポイントが満載でした。ちなみにIntel版Macは発熱もそれなりにありました。アプリを立ち上げて作業し始めるとすぐに60度を超えてファンが回るようになり、ファン音で作業に集中できなくなることもありました。


Macbookに慣れるべくしばらく使っていましたが、1年後に突如としてApple Siliconチップ(M1)を搭載したMacbook Airが発売されました。どうやらiPhoneやiPadなどのモバイルプロセッサが元になったARMアーキテクチャを採用しているとのことですが、世間一般の評価は「簡単な動画編集であれば問題なくできる」という衝撃的なものでした。口コミ通りにファンレスのノートPCで動画編集ができるものか?と非常に気になっていました。それからほどなくしてM1 Macbook Proが登場し、Intel CPUのMacbookを購入してから2年しか経っていませんでしたが、「Apple Silicon」が気になっていた私は、Intel版Macbookから買い換えることにしました。


M1 Macbook Proは衝撃的な性能でした。CPUファンはついているのですが、illustratorで図面作成程度では全くファンが回らないほど発熱しませんでした。それどころか4年弱使用してきてファンが回ったことは一度もありません。「本当にファンはついているのか?」と疑うほどでした。これはWindowsノートPCとの比較だけでなく、Intel版Macbookと比較しても明らかに違いました。ARMアーキテクチャを使ってモバイルチップを改良したものが使用されるとのことだったので、高負荷に耐えられるのか懸念していましたが、その心配は無用でした。


このARMアーキテクチャへの変更はアプリ側の対応も必要となりました。特にサードパーティ製のアプリはそれまでのIntelやAMDで使われてきたx86アーキテクチャからARMアーキテクチャ用に作り直す必要があるため、各社がどのくらいのスピードで対応してくるのかを注目していました。しかし私の想定していた以上に早くARM版のアプリが各社から発表され、M1 Macbook Proを1年ほど使用している間に、ほとんど不便は感じずに使用できるような環境になってきました。


業務で使用する上でMicrosoft Office(Word, Excel, Powerpoint)の使用が問題ないかは重要なポイントでしたが、意外にも違和感なく使用できました。以前のMS OfficeはWindows版とMac版でUIがだいぶ違うイメージでしたが、近年統一されてきて、使用感もあまり変わらなくなってきていると感じました。M1 Macbook Airが2020年11月に発売されたわずか1ヶ月後の12月にはAppleSilicon対応バージョンのMS Officeがリリースされ、ARM版対応も早くから行われていました。


これらの経験から、M1 Macbook Proを使い始めた当初から時間が経つにつれ、その完成度の高さに「業務用のPCもMacbookにすれば性能の問題が解決されるのではないか」と想像するようになりました。このタイミングで社内で何度か議論をし、上司や代表からも「チャレンジしてみよう」という後押しがあり”移行”という決断に至りました。




Macbookに移行する上での課題


全てのPCをWindowsからMacに置き換えるには至っていませんが、ほぼ無くすことができるところまでに到達しました。しかしながらWindowsからMacへの移行は簡単ではありませんでした。この章では、EFAでWindowsからMacに移行する際に課題とそれぞれをどのように克服してきたのかをまとめました。


「Macへの移行と同時に発生したプロジェクト」と「Windowsの優位が明らかになった点」に大きくわけると以下のようになります。


Macへの移行と同時に発生したプロジェクト

・課題1:Windows専用の基幹システムの変更

・課題2:既存社員への説明

・課題3:複合機の入れ替え

・課題4:Active Directoryとの決別


Windowsの優位が明らかになった点

・課題5:Microsoft Officeとの相性

・課題6:電子証明書

・課題7:文字化けとフォント

・課題8:周辺機器のソフトウェア


課題1:Windows専用の基幹システムの変更 

Macへの移行に際して一番の制約事項だったのは社内の分析業務管理システム(以下、基幹システム)がWindowsでしか使用できないことでした。このシステムは社員の約半数が利用しており、Windows環境が不可欠でした。


この基幹システムはVisual Basic 6(VB6)というプログラミング言語を使って開発されており、相当古くなってきていて、大幅なシステム改修について検討されていました。本来はもっと前にこのシステムの改修が始まっていてもおかしくはなかったのですが、タイミングとリソースの関係で先延ばしになっていました。このため、改修後のシステムは正当に行けばVB6の後継となるVB.NETを使用して作るところを、マルチプラットフォームに対応できることを要件として強く要望し、徐々にWindowsからMacに変更できるような段階的な移行計画を立てました。


まずはこのシステムを使わない残りの半分の社員に対してMacbookへの入れ替えを進めていき、業務上の問題がないかを少しずつ試していきました。残りの半分の社員についてはシステム改修後にMacbookへ切り替えてもらうような計画で進めていくことにしました。


結果的に基幹システムの改修はプロトタイプの制作期間を含め丸3年かかりました。2024年の9月には以前のシステムからの切り替えを行い、そのタイミングで基幹システムを使う社員に対してもMacbookへの移行を行い始めました。システム改修は2025年の6月でひと段落し、WindowsからMacbookへの入れ替えと共に、基幹システム更新プロジェクトは完了しました。


課題2:既存社員への説明

Windowsしか使ったことがない方が、いきなり「今後会社で使うPCはMacになります」といきなり言われるのは、戸惑いや不安を感じることだったと思います。世間では「うちはWindowsでもMacでも両方使えるようにしました」という例は聞いたことがありますが、完全にWindowsからMacへ移行した例は稀でした。しかし会社として情報インフラの保守コストを削減を考慮すると、両OSの併用は非効率的だと考えていました。


WindowsからMacbookへ変更することをだいぶ前から周知していましたが、その理由の説明や熱い思いは社員のみなさんへ十分に説明できていなかったと思います。成功への確信が持てず、断言する自信が持てなかったという意識もあったかもしれません。このため、「プライベートでMacを使っている人」や、「Macを使ってみたい人」のような、比較的移行に好意的なメンバーから先に交換することで、なるべく社員の協力を得やすい形で導入を試みました。


Windowsしか使用したことの無い人に向けては、私がMacを使用し始めた時に苦労したポイントを共有するようにしました。主に私が操作に慣れるのに苦労したポイントは以下の通りです。


・マウスカーソルの移動速度

・Finderの挙動

・キーボード配列

・キーボードショートカット

・Dockとアプリの挙動

・トラックパッドの使い方

・ウィンドウの配置


特に個人的に戸惑った操作のトップ3は「マウスカーソルの移動速度」「キーボードショートカット」「Finderの挙動」です。マウスカーソルの移動速度については背景の「Macに切り替えようと思ったきっかけ」でも記載したように、加速度の違いによる違和感に慣れるまで半年ほどかかりました。キーボードショートカットも、スクリーンショットなど良く使うものは手の動きの感覚で覚えてしまっていたので、癖を直すのに苦労しました。WindowsのエクスプローラーではF2キーでファイル名の変更を行なっていたのが、Finderではエンターキー(returnキー)でファイル名変更状態になってしまうことや、フォルダのディレクトリ(階層構造)を意識したファイルの保存に慣れていたため、Macでの操作に慣れるのに時間がかかりました。


しかし慣れると逆に使いやすい点もいくつもありました。例えばWindowのエクスプローラーでは常に「場所」(例えばC:\Users\Username\Documents\Projectsなどのフォルダパス)を意識してファイルの階層を辿る傾向が強くありました。一方MacのFinderではSpotlightでの検索が非常に高速な上にタグなどの様々なメタデータも同時に検索の対象となるため、「検索してダイレクトに見にいく」というファイル管理の概念を変えてくれるような感覚でした。


私自身の苦労が導入時の説明に生かせたことは幸いでした。時には一人1時間以上の時間をとって説明を行ったこともありました。説明を重点的に行った社員がいる一方で、Macを使ったことがないにもかかわらず1日で慣れた社員もいたりと反応は様々でした。社員数がまだ40人程度と、比較的時間をとって説明ができる人数ギリギリだったことも幸運でした。UdemyでMacの使い方の説明をみてもらうように事前に通知はしていたので、一部の社員が自習してくれたことも助けとなりました。


課題3:複合機の入れ替え

Macに切り替えた当初から、複合機による印刷に問題が頻発していました。具体的にはPC画面上で表示されている場所と異なる場所に文字が印刷されるなどの「印刷のズレ」、印刷JOBを投げてから印刷が開始されるまで5分くらいラグがある「印刷遅延」、Windowsでは利用できていた出力先トレイ変更などの「一部印刷オプションが使えない」といったことが社員から報告されていました。


これらの問題について問題発生時の情報があまり得られずに再現が難しかったことから、問題解決は先延ばしになっていました。しかし、元々印刷会社で働いていた方がEFAに入社し、ある時「複合機がPostScriptに対応している必要があるかもしれない」と助言を得ました。PostScriptという単語自体は聞いたことがあったのですが、Macにする上で考慮する必要があるものとして認識できていませんでした。調べていくと、どうやらMacとWindowsではプリンターに印刷命令をする際のPDL(Page Description Language:ページ記述言語)が異なり、macOSはPostScriptやPDFベースの描画を内部的に多用しているため、複合機側がPostScriptに対応していないとMacからの印刷がうまくいかない現象が起こりやすいことがわかりました。


一般的なオフィス用複合機は、Windowsで主に使用されるPCL(Printer Command Language)に標準対応しており、テキストやシンプルな図形を高速かつ低コストで印刷することに適しています。一方、MacintoshはDTP用途をルーツに持ち、PageMaker(Adobe InDesignの前身)などとともに高精細な印刷を得意としていたため、PostScriptへの依存が強い設計でした。近年では複合機のプリンタの性能も上がり、PostScript対応をオプション扱いとする「PSカード(PostScript拡張カード)」を搭載するだけで、PostScript形式の印刷データにも対応できるようになっています。ただし、多くの複合機ではこの機能がデフォルトでは搭載されておらず、Mac環境での印刷に必要な条件として、事前に確認すべきポイントであったといえます。


幸い、複合機は型式が古い上に再リース状態だったので、新しい複合機に変更を決定しました。ベンダーにオプションのPSカードを付けてもらった結果、Macからの印刷について問題は解決しました。


課題4:Active Directoryとの決別

1993年にWindows Serverのドメインコントローラー機能が登場し、2000年にはさらに改良されたActive Directory(以下、AD)が発表されて以降、企業が社内にWindows Serverを設置し、Windows端末をADで統合管理することが事実上の標準となりました。EFAでも、ユーザーIDの管理や社内ネットワークの構成(DHCP・DNS統合)、共有ストレージのアクセス制御を目的に、社内にWindows Serverを設置し、ADを運用していました。この構成はイントラネット内に信頼を置くもので、都度認証やアクセスの継続的評価といった仕組みはなく、いわゆる「境界型防御」の典型的な形でした。


しかし近年では、イントラネット上のリソースであっても信頼せずにアクセスを制御する「ゼロトラストモデル」への移行が進み、ADだけの認証やUTMに依存する構成は「時代遅れ」あるいは「不十分」とされつつあります。ゼロトラストという言葉が広まる以前から、私自身も、社内にサーバーを置いて管理することや、VPNへの過度な依存に対して不安を感じていました。手作業が増えることで管理が複雑になり、脆弱性が生まれやすくなると考えていたためです。(ゼロトラストという言葉自体はやや広義ですが、ここでは「ネットワークや端末の所在に関わらず、アクセスや利用状況をもとに継続的に信頼を判断する」という価値観として捉えています)


また、Macbookへの移行を検討する中で、Windows Server上のADとMacの相性の悪さも次第に明らかになってきました。技術的にはMacでもADに参加させることは可能ですが、グループポリシーには対応しておらず、ログインスクリプトやセキュリティ設定の一元管理といった、ADの持つ多くの管理機能がMacでは利用できません。さらに、MacがADに参加していても、ログイン時の認証が不安定になったり、パスワード変更の同期がうまくいかないといったトラブルもあるようで、安定運用が難しいという印象がありました。ADが企業ITの標準基盤として広まっていく中で、Macが選ばれにくかった背景の一つとなっていたと考えられます。


一方で、EFAでは創業時からGmailを使用していました。2020年以降になると社内の共有ストレージの問題を機にGoogle Driveへ移行し、コロナ禍ではオンライン会議にGoogle Meetを使用するなど、Google Workspaceへのインフラ統合を進めてきました。そのためID管理についてもGoogleアカウントを使いたいと考え、ローカルドメインのIDではなく、GCPW(Google Credential Provider for Windows)の導入によるID管理ができないかを試行錯誤していました。


こういった背景の中Macへの移行と共に辿り着いた現時点での結論は、Jamf Proによる端末管理と、Jamf ConnectによるGoogleアカウントを使用したMacbookへのログインでした。しかしEFAのJamf Pro / Jamf Connect導入までの検討ハードルは非常に高いものでした。MDMには基本機能に絞って安価に提供されるものから、高性能・高価格なものまであります。特にEFAとして必要としていたPC初期設定の時間の短縮ができる「ゼロタッチキッティング」、会社のポリシーを反映させるための「構成プロファイル」のカスタムと配布、「IdP(アイデンティティプロバイダ)との統合管理」といったものが、後者の高性能・高価格にあたるものであったためです。


この選択肢に辿り着くまでにJamf Nowも試すなどして彷徨った結果、一時期PCはAD、GCPW、Jamf Now、Jamf Proの4種類で管理され、さらにスマートフォン(iPhone)はまた別のMDMが入っている、といった情シスにとって非常に負荷の大きいバラバラな管理状態になってしまいました。現在は機器の入れ替えのタイミングなどで徐々にJamf Proへの統一に向かっています。今思えば 情報セキュリティのポリシーと端末管理の方法、そしてMDMの選択をMac切り替えに際して合わせて決められたらベストでした。


・Windows:ADとGCPWの混在

・Mac:Jamf NowからJamf Proの移行途中

・iPhone:別のモバイルMDM


なお補足として、MDMを導入すると、アプリの配布や管理もあわせて行う必要が出てきます。多くの場合、Apple Business Manager(ABM)を通じてアプリのライセンスを取得し、MDM経由で各端末に配布する「VPP(Volume Purchase Program)」が活用されます。これにより、ユーザーが個人のApple IDを使わなくても、企業所有端末に必要なアプリを一括で配布・管理することが可能になります。


ただし、App Storeで個人のApple IDを使って課金する形式のアプリ(いわゆるアプリ内課金やProバージョンへのアップグレードなど)は、ABM経由では課金やライセンス購入ができないため注意が必要です。こうしたアプリを業務利用する場合は、開発元が提供する「チーム版」や「エンタープライズ版」などの法人向けライセンス形態を事前に確認し、必要に応じて公式サイト等から個別に契約・支払いを行う必要があります。


課題5:Microsoft Officeとの相性

「背景2」で記載したように、Mac版のMicrosoft Office(Word, Excel, Powerpoint)は業務での使用にあたって問題がないと想定していましたが、使用するにつれていくつかのバグが判明しました。原因不明の事象だけでも以下のようなものがありました。


・Wordで段落(文字間隔)を細かく指定しようとした際にソフトが落ちる。(運用方法の変更でカバー)

・挿入した図形に影などをつけるとPDF化した際に表示されなくなる。(運用方法の変更でカバー)

・VBA(マクロ)が入っているExcelが動かない。(諦める)

・印刷した時に画面上に表示されている内容と、印刷した文書の文字の位置がずれる。(複合機を入れ替えすることにより対応)


Wordのバグは運用をシンプルにすることで解決しました。そもそも細かな段落設定やオブジェクトの影は本当に必要なのか?それで価値が上がるのか?そう考えるとなぜ余計なデザインを付けているのか、外しても良いという結論になりました。読みやすさのために設けた段落も改行を工夫することで代替可能です。


VBAは社内で使用するものはその部分をMacに対応するように書き換えたり、行政の提出物はPDFのフォーマットを使うなどして対応しました。今後は、マクロが入っているファイルのやり取りは情報セキュリティ対策の観点から減少していくと考えられます。そうなれば、より一層Macへの移行についての問題が解消されるので、VBAの問題は時代の流れが解決してくれるでしょう。ただし、今までVBAを多用したマイクロアプリの資産がある組織がMacへ移行する場合は検証が必要です。


「表示と印刷の文字の位置ずれ」という問題については当初Mac版Officeの問題と思っていましたが、「illustratorから表示通りに印刷できない」などのことが発生するようになり、「課題3:複合機の入れ替え」にあるように複合機を変えることによって解決しました。


課題6:電子証明書

日本で事業を行う上でMacのみで業務をできない最大の理由は行政や銀行のシステムがWindowsを前提としている点にあることです。例えば行政の電子入札システムには残念ながらMacは対応していません。また、e-Gov (電子政府の総合窓口) 、eLTAX (エルタックス)、各銀行インターネットバンキングでは電子証明書が求められることが多く、特定のActiveXコントロールや専用のブラウザプラグインを必要とするため、Mac OSには非対応とされています。もし電子証明書を使っていれば、Macに移行できるかどうか検証が必要です。こういった申請用のPCとして1台、物理的か仮想マシンでWindowsを保持しておく必要があるかもしれません。


EFAでは一番ハイスペックなWindows PCを共有用として残すことにしました。また、インターネットバンキングにログインが必要な経理担当者はその時だけWindows PCを使うようにしています。


課題7:文字化けとフォント

文字化けも万能薬のような対処方法がない領域の問題です。文字化けは主にShift JIS、UTF-16、UTF-8の関係や、WindowsとMacの使用しているフォントの違いによって発生し、万能な解決策がない複雑な問題です。このためユーザーはMacへの以降がWindowsとのファイル交換における文字化けの原因と捉えがちです。


しかし、文字コードについては以下のようにUTF-8がスタンダードとして統一される方向へ進んでおり、将来的には文字化けの問題は減少すると期待されます。私自身10年前と比べてもWindowsとMac間の文字化けが少なくなってきたと実感があります。


・Windows: Shift JIS → 内部UTF-16にしつつShift JIS互換を重視 → 近年外部互換のためにUTF-8に対応を強化中

・Mac/Linux: 独自/地域依存コード → 2000年代中頃からUTF-8へ本格移行 → 現在UTF-8が標準


特にファイル名、ZIPファイルやCSVファイルの文字化けなどが多くありましたが、Shift JISやUTF-16からの変換を行うことや、どうしても古いシステムとやり取りする場合は半角英数字を使うなどして対応を行うことで現状は対応し、今後の技術の進化に期待するのが良いでしょう。


また、フォントの違いは印刷時に文字化けや印刷ズレが発生する原因になります。基幹システムをマルチプラットフォーム対応としたものの、フォントの表示互換性については事前に検討が不足していました。現時点ではGoogleフォントに置き換えていくことが最善策だと考えています。


課題8:周辺機器のソフトウェア

周辺機器がMacに対応していない状況はよく起こります。EFAでは複合機とデジタルカメラのソフトウェアがMacに対応していませんでした。


複合機については「課題3:複合機の入れ替え」で印刷のズレや遅延がありました。これは複合機を新しいものに変え、PSカードのオプションを追加することで解決しました。

デジタルカメラは顕微鏡に搭載し、アスベスト分析の際に対物レンズで拡大している試料を撮影するために使用しています。カメラとPCはUSBケーブルで接続し、PC上のソフトウェアでシャッターを切る方法です。以前は顕微鏡メーカーのカメラを使用していましたが、カメラを使用するにはメーカー製の専用PCを購入する必要があったため、PC選択の自由度を向上させるために、市販のデジタルカメラに切り替えました。ところが、Macbookに移行当初はこの市販のデジタルカメラのソフトウェアがApple Silicon搭載Macに対応していませんでした。このため、「ソフトウェアがApple Silicon搭載Macに対応している」別のカメラに切り替えることを検討していました。


しかし、顕微鏡を使用している社員は「課題1:Windows専用の基幹システムを変更」と同じメンバーであり、この基幹システムの改修を行っている3年間のうちに、メーカーからApple Silicon搭載Macに対応したソフトウェアが発表されていました。結果的にカメラの全切り替えによる大幅なコストを支払わずに済みました。




Macbook導入後に感じたメリット


期待通りのデバイススペック

Macbookに導入後、社員からの動作の遅さに関する不満は解消されました。EFAでは一番最小スペック(いわゆる吊るしモデル)のMacbook Proか、メモリを16GBに増設したMacbook Air(2025年3月のM4 Airでは8GBメモリモデルは廃止)を採用しました。


illustratorを使うメンバーは念の為Macbook Proにしたのですが、「Macbook Proは重いので、次はMacbook Airにしたい」と言われることがありました。確かに4Kの動画編集を行うとか、Dockerの開発環境を使って検証する、とかいったことが無いのでEFAのほとんどの用途ではMacbook Airで十分なのかもしれません。


このユーザー体験の向上の理由は、ARMアーキテクチャによるCPU設計はもちろんですが、Appleが「ユニファイドメモリ」と命名したDRAMの存在が大きいと考えています。Apple Silicon MacはメモリがApple Siliconチップと極めて近い位置に高速なフォーマット(LPDDR5/LPDDR5Xなど)で基板に直接はんだ付け実装されているため、購入後にユーザーが自分で手軽に入れ替えたりすることができません。その代わり、ユニファイドメモリはCPU、GPU、NPUから共有してアクセスできるようになっていて、さらにはApple Siliconチップ内にストレージコントローラーを設けることでSSDと連携できるように設計されています。16GBメモリでもたくさんのアプリやタブを開いていれば当然DRAMメモリ領域を使い切ることはありますが、上述のような連携により、メモリが不足しストレージを仮想メモリ(スワップ)として使用していても、ユーザーにそのラグを感じさせません。従来illustratorを使う社員には32GBメモリ搭載のWindows機を用意していましたが、16GBメモリのMacbookで問題なく使用できており、文字通りハードウェアの問題が解消されました。


M1チップが出てから5年が経過し、私のM1 Macbook Proも4年目を迎えました。いまだに世間的なApple Siliconの評価は変わらず、私のMacbookも問題なく使用できています。2025年6月時点で最安値のMacbook Airは約16万円ですが、同価格帯で3年ほどスペック低下がほぼなく、バッテリーの劣化も少なく、Premire Pro、Blender、Figmaといったグラフィックソフトも問題なく使用できるようなノートPCは今まで経験がありませんでした。


さらに、Macbookはリセールバリュー(再販価値)が高いため、リースや保守契約をセットにすることでWindows PCのリース・保守契約と比べて大幅に費用を抑えることができました。性能差を考慮すると3倍以上の価値があると感じています。


統一された端末

Macbook導入以前はWindows PCを使っていましたが、WindowsといってもEFAで使用していたのはDell、HP、東芝、パナソニック、マウス、BTO、自作など、様々なメーカーの端末が混在していました。


PC管理において、機種の統一性を高めることは大きなメリットがあります。例えばWindows Updateによるアップデートの内容はDellのWindowsやHPのWindows、その他のメーカーのPCで異なります。つまりこれらは使われているパーツやドライバが異なることから「同じWindowsマシン」ではなく、「別のWindowsマシン」なのです。その結果、個別のトラブルが増え、確認作業やトラブルシューティングにおける不確定要素が増します。現に「背景:ノートPCを頑張って選定するという苦悩」で記載した、Googleストリートマップが見られなくなったPCと同機種同スペックは他に購入していなかった上に、他のPCでは問題が起きていなかったため、問題の再現や原因究明が困難でした。


BTOや自作PCであれば細かくパーツを指定できるので、端末費用を抑えることができます。しかし、安さだけを追求しその都度異なる端末を導入していると長期的にみて問題が起きたときの原因特定が難しくなるという問題が生じます。端末購入の費用は安く抑えられるものの、トラブル対応の費用を考慮すると逆転現象が起きている可能性があります。Macbookに統一してからというもの、社員からの問い合わせが減っただけでなく、トラブルが起きた際の改善方法も検証が楽になりました。


PCの選定時に上司に対しての無理やり理由を作った説得や問題特定の議論もあまりしなくて済むようになりました。強いて言えばメモリが8GBか16GBかという議論はあったと思いますが、上述の通り8GBメモリのMacbook Airは最新機種では無くなったため(最小でも16GBから)、その選択肢すらなくなりました。


異なるメーカーの機器を組み合わせることで、問題発生時のリスクを分散し、冗長性を高める戦略も考えられます。しかしEFAのような規模や体制では保守と管理の効率を高めることが最優先事項であり、単一メーカーで統一することの方が大きなメリットがありました。Windowsでもメーカーや端末の種類をなるべく統一すれば同様の苦労は最小限に抑えられるでしょう。しかし、Windowsは選択肢が非常に多いため、検証が大変ですし、「次は良いマシンに出会えるかもしれない」と期待してしまって、ついつい色々なPCに手を出しがちです。選択肢の多さが、必ずしも幸せにつながるとは限らないと実感しています。




最後に


EFAがITインフラを大きく変えるまでには5年かかりました。この間、基幹システムの改修、Macへの変更、セキュリティインフラの拡充などを行ってきましたが、常に「Mac OSでも問題なく動作するか」が心配ごととしてのしかかっていました。その上社員からの問い合わせがあるたびに「Windowsのままでいれば良かったのかもしれない」と挫折しそうになることが何度もありました。


そんな中でも、「八木さんが会社のパソコンをMacにしようとした理由がわかった」と言ってくれる社員の方がいたり、上司の金子さんが「そうは言ってもハードウェア面でみたらコスパは圧倒的にMacでしょ」と言って励ましてくれたりしました。このチャレンジを応援してくださった皆様に感謝しています。


また、情シスの方が集まるイベントに参加し、WindowsとMacを両方使えるようにしている会社さんだったり、Macのみ支給している会社さんの情シスの方の会うたびに構想や頑張りを褒めてくれる人がいて、「自信を持って進めて行こう」という気になり、諦めずに進めてこれたと思います。


今回記事にすることで私が改めて気付かされたのは、Macへの移行は単に会社で使用するノートPCを変えたという話ではなく、それに付随したシステムや周辺機器、セキュリティ対策まで一貫して考える必要があったのだということです。そして、こういった「情報インフラについて真面目に考え、理念をカタチにすること」自体が情シスとしての重要な仕事の一部だと考えています。


この記事は、今まで関わってくださったPC販売代理店、ネットワーク・セキュリティーベンダーの方や情報交換してくださった情シスの方々に感謝するとともに、同じく困っているひとり情シスの方にこの記事が目に止まって、少しでも参考になる情報があればと思い、なるべく事実ベースで記載しました。


また、情報インフラをしっかり考えて整えることは、情報を大切にするお客様にEFAを選んでもらえる一つの要因になればと考え、今後も社内インフラの整備に努めていきたいと思います。


長くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。私の通ってきた道のりと苦労がこれからMac切り替えを検討されている方の参考になれば幸いです。



ライター紹介

今回のライター:管理部 八木(情報システム担当)

2013年EFAに入社し、土地・建物の環境調査を7年経験。その後バックオフィス業務に4年従事。

・好きなキーボード配列:格子配列(オーソリニア)


ヘルメットをかぶり、リュックを背負った男性が、林の前の広場でドローンを操作している。ドローンは地面から少し浮上し、男性は手元のコントローラーを操作している。
Macに切り替えようと思ったきっかけ:Apple Silicon Macbookとの出会い」で記載したドローンを操作している八木

 
 
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