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アスベスト事前調査 〜関連法令についての誤認識が招く多大なリスクについて〜


はじめに


現在、ことに都市部においては各所で絶え間なく解体・改修の工事が行われています。

筆者の自宅周辺でも、つい最近都市再開発に向けた解体工事が始まりました。

上記のような解体工事(・改修工事)には、この記事で深堀りする「アスベスト事前調査」(以下:事前調査)が密接に関わっています。

事前調査にまつわる法規制はここ数年で大きな転換期を迎えました。そのため、工事に携わる方々は「2年前に覚えたときはこうだった」というような曖昧な認識のままで仕事に臨んでいると、知らぬうちに「法律違反」を犯してしまい、「労働者や近隣住民へのアスベスト曝露」、「訴訟問題」などといった悲惨な事態にも繋がりかねないのです。

本記事では法規制の移り変わりによって工事関係者が陥りがちな「勘違いポイント」を確認していき、その上で、誤った認識のまま工事へ進んでしまった際に起こるリスクについても触れていきます。工事の元請業者の方はもちろん、発注者の方、アスベスト全般にご関心をお持ちの方も、ぜひご一読ください。


要注意ポイント!

それでは早速、事前調査の関係法令について間違えやすいポイントを整理していきましょう。



ケース①:「請負額100万円未満だし、壁の一部剥がすだけの内装工事だから事前調査もいらないだろう」


非常によく耳にする間違いです。

工事に係る方々はついつい「受注金額が低ければ〜」「工事面積が小さければ〜」と考えてしまいがちです。

こういった間違いが生まれてしまう背景には、「事前調査の対象になる工事」と「事前調査結果の報告が必要になる工事」の要件が正しく整理できていないことが挙げられます。


まず「事前調査の対象になる工事」ですが、これはほとんどのケースが該当すると考えてよいでしょう。例外となるものは、建築物等の解体等には該当しない作業のみです。『建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル』(厚生労働省・環境省)にて説明されている内容をまとめると、


事前調査の必要がない工事・作業一覧の表
〈表1〉 事前調査の必要がない工事・作業一覧

以上に該当するものは、例外的に事前調査を行わなくてもよいことになっています。しかし、あくまで例外的にです。既存の材料を撤去したり損傷させたりする恐れのある場合はすべてのケースで事前調査が必要になります。ここに請負金額や工事対象面積は関係ありません。どんなに金額の小さい/規模の小さい工事でも、事前調査は行う必要があるのです



続いて、「事前調査結果の報告が必要になる工事」は、


事前調査の報告が必要になる工事・作業の表
〈表2〉 事前調査の報告が必要になる工事・作業

以上に該当するものは、事前調査を終えた後に行政への報告を行わなければいけません。

(……ここにもう一つ、勘違いポイントが潜んでいます。「事前調査も分析もきちんと有資格者にやってもらった。その結果、アスベスト含有建材はひとつもなかった」という場合についてです。アスベスト含有建材がなかったのなら報告はいらないのでは…と思いたくなりますが、実はこれは間違いです。事前調査結果の内容にかかわらず、対象の工事には必ず報告が求められます。アスベスト含有建材はなかったという旨をフォームに従って入力しましょう)


この「事前調査の対象になる工事」と「事前調査結果の報告が必要になる工事」の2つの要件はともに事前調査に関する法規制の例外的な立ち位置を定めるものであるため、その内容が混同しやすくなっております。気をつけて、整理しておきましょう。



ケース②:「解体工事を依頼されているけど、めっちゃ新しい建物だし、使われている建材にもアスベストは入っていないだろう。聞いた話だと、2006年9月以降の着工だって聞いてるし。含有なしってことで工事を始めちゃおう」


2006年9月1日以降に着工した新築建造物においては、解体等の際、現地目視調査は不要だと認められています。しかし、上記の条件を満たしていても、現地での調査を行わなくてはいけないケースも存在します。それは、着工日(または製品の製造日)がきちんと記録に残っていない場合です。


上記のように、着工日を又聞きしたというだけでは何の証明にもならず、それをもって工事に入ると、後々になって事前調査を怠ったと指摘されてしまいます。建築概要書などに2006年9月1日以降の着工日が記載されているかなど、説明として十分な記録が残っていることを必ず確認しましょう。


記録で確認できなかった場合でも、現地にて、建材の裏面等に印字された商品番号や型番から製品を特定することもできます。得た情報により、製造メーカーからアスベストを使用していないという証明をもらうか、その製品の製造年月日が2006年9月1日以降だということが確認できれば、含有なしとして対象部位(・対象建材)の調査を終了することができます。(この場合においても、対象建材の製造年月日確認という事前調査を行っているため、行政への報告は必要です)


以上に関連して気をつけたいのは、「無石綿」「NON-ASBESTOS」など、アスベストが使用されていないと謳っている表示についてです。建物の調査中などに成形板の裏を確認すると、以下写真1のような表示を発見することがあります。「よかった、ここの建材はアスベストが使われていないんだ」と安堵してしまいそうになります。しかし、いけません。


「NON-ASBESTOS」表記がある建材   (こちらの建材については分析を実施していないため含有・不含有は不明)

〈写真1〉「NON-ASBESTOS」表記 

(こちらの建材については分析を実施していないため含有・不含有は不明)



「石綿含有」とされるものの基準が、今と昔で異なるためです。

アスベストの規制は段階的に強化されていきました。

1975年には重量に対して5%、1995年には1%、2006年には0.1%と規制がかかっていきました。


これは裏を返せば、1997年に製造された建材はアスベストを0.8%含んでいたとしても「無石綿」と表示できてしまうということになります(現在の規制である0.1%に照らせば、確としたアスベスト含有建材になります)。こういったケースがあるため、これらの表記は実際のところ、あまり調査の参考にはならないのです。



アスベストの飛散性


事前調査の関連法令について、誤認識が生まれやすいポイントを紹介してきました。

では、仮に上記のようなポイントを見逃してしまい、正しい事前調査が行われなかった場合(または調査の実施を怠った場合)、どのような事態に発展してしまうのでしょう。アスベスト含有建材を見落とし、そのまま工事に入ってしまった場合のリスクを考えていきます。


皆さんはアスベスト含有建材を破砕した際にどれだけのアスベスト繊維が飛散すると思いますか。

以下の図はアスベスト繊維の飛散性について、建材種類別に検証した結果となります。



粉砕実験結果による石綿含有建材の繊維の飛散性の比較図

〈図1〉粉砕実験結果による石綿含有建材の繊維の飛散性の比較



タイルの下地材や、開口部塞ぎ、外部軒天など、幅広い用途で使用されている「けい酸カルシウム板第1種」はレベル3の分類でありながら、破砕の際に大量のアスベスト繊維を飛散させます。湿潤化なしの状態であれば、その本数は空気1Lにつき4800本。うまくイメージができないかもしれませんが、人間の1回の呼吸量が500~600ミリリットルであることを参考にするといかがでしょう。2回呼吸をするあいだに、4800本のアスベスト繊維を吸い込んでしまうという計算になります。たった2回の呼吸だけで4800本、です。解体現場の周囲に居住している人、解体作業に従事している人はその比ではないでしょう。いったいどれだけの量のアスベスト繊維を吸い込んでしまうのでしょうか。想像するだけで恐ろしいことです。

アスベスト繊維を大量に曝露すると、肺がんや中皮腫といった呼吸器系の疾患が発生しやすくなります。これらの疾患は、どれも致死性の高いものです。中皮腫に限って言えば、発症後の生存率は2年後で30%、5年後で3%です。

またアスベストの繊維は、1本の直径が0.02-0.35μm(髪の毛の5,000分の1)と細く、微小です。とても軽いので、些細な空気の流れで簡単に飛散していきます。作業に当たる方だけではなく、その近隣に居住されている方々にもアスベスト被害を与えてしまう可能性があります。


事前調査が正しく行われないことが、どのような悲劇の種となるのか。

これだけでも十分にわかっていただけたことと思います。

単純に罰則を受けるだけでは終わりません。

アスベストは人の命を奪います。そして「アスベストを飛散させたという」事実は大きく報道されるため、管理中の建物の価値や、会社の社会的な信用などを決定的に損ねることにもなるでしょう。多額の賠償金、そして裁判にも発展するかもしれません。



まとめ


事前調査に関わる法律は複雑で、誤認識が生まれやすいものであります。

それにもかかわらず、一つの誤認識で発生し得る損害は甚大です。

事前調査は常にリスクと隣り合わせのものであると認識しておきましょう。


また、そのなかで少しでも不安があるようでしたら、周りの人々のためにも、そして自分自身の身を守るためにも、必ず専門家を頼りましょう。

EFAラボラトリーズにはアスベストのプロフェッショナルが数多く揃っています。

経験に基づいた的確な判断をくだせる実績と自信があります。

正しい仕事をしようと心がけ、それを高いレベルで実践しております。

皆さんが抱えている不安は、当社にご相談いただくことで解消できるかもしれません。

ご質問への対応も可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。



この記事の作成者: 中田日向(コンサルタント部)



〈お問い合わせ〉

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