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善意がリスクにならないために。能登や阪神の事例から学ぶ、災害時アスベスト曝露の「生々しい実態」|石問研への参加を終えて

  • 2月10日
  • 読了時間: 11分

更新日:3月12日


会場となっている東京科学大学の入口看板
会場となっている東京科学大学

本記事は、先日行われた「石綿問題総合対策研究会(以下、石問研)」に参加いたしましたので、その所感についてお伝えしたいと思います。石問研は、録画・録音等が禁止されているため、詳細な内容に深く触れることはできませんが、私が特に印象に残ったことについて共有できればと思います。


まず、こちらの石問研についてですが、EFAラボラトリーズからは全社員が参加いたしました。そのため、分析業務の一部サービスを一時停止させていただいておりましたので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。その節は、ご不便とご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。




研究会設立の目的


将来の石綿関連疾患の健康リスクを低減させることが、石綿に関連する研究と仕事の目的です。そのためには自らの専門分野と仕事だけでなく、多様な分野の知識と経験といった総合性、多様性、科学的態度、精度管理等が必要です。石綿研究の経験と交流を目的とする研究会を設立します。


石綿のリスクと医学関連、調査と分析、管理、除去、対策、廃棄、災害、建築、歴史、社会等の各分野の専門家、行政関係者、 NPO等の交流を通じ、総合的石綿対策の理解、石綿の健康リスクの削減、震災時対策、その他の課題等について、年1回の研究会の定期的開催で研究、交流することにより、多様な石綿問題の解決に寄与していくことを目指しています。


石綿問題総合対策研究会HP 研究会の概要ページより引用




被災地ではボランティアの方々が、意図せずアスベストに曝露してしまう状況が存在している


私は、この石問研への参加は今年で2回目となります。前回も感じたことですが、事業者、行政、NPO団体、作家など、様々な立場の方のお話を聴講できる非常に貴重な機会です。業務で馴染みのある話だけでなく、普段なかなかお伺いする機会のない「現場の生々しいお話」を聞くことができる点が、この研究会の大きな魅力だと感じています。


その中で、今回特に印象に残ったのは、「被災地ではボランティアの方々が、意図せずアスベストに曝露してしまう状況が存在している」というお話でした。そして、そのボランティアの対象には、大人だけでなく子どもたちも含まれているという事実です。


特に子どもたちの曝露については、幼稚園・小学生の子を持つ私にとっても、決して他人事ではありません。アスベスト曝露は年齢が若ければ若いほどリスクが高まるという研究結果も出ているため、なおさら危機感を覚えました。講演では、阪神・淡路大震災でのがれき処理に関わったボランティアの方々のその後や、能登半島地震における「ホテル海楽荘」の事例についても言及されていました。




実際に、1995年の阪神・淡路大震災でも被災地の随所でアスベストが飛散し、環境庁(当時)の調査でも、一般大気よりも高いアスベスト濃度が計測されています。2011年の東日本大震災でも大気中アスベスト飛散の発生が同様に確認されています。


近年、阪神・淡路大震災の倒壊建築物やがれきの処理に直接携わった労働者に、アスベストが原因とみられる健康被害が相次いでいます。わずか2カ月だけ臨時雇用でがれき処理に関わった宝塚市の男性や、がれき回収に携わった明石市の職員ら、少なくとも6人が中皮腫を発症しています。同じ被災地で活動したボランティアにもアスベストによる健康影響が危惧されるものであり、震災から30年が経っており健康影響が懸念されます。


NPO法人 ひょうご労働安全衛生センターHP

災害とアスベスト被災地におけるボランティア活動に関するアンケート調査を開始ページより引用


昨年の能登半島地震と豪雨で被災した石川県珠洲市の宿泊施設「ホテル海楽荘」で、発がん性が高いアスベスト「青石綿」が露出していたことが判明した。同施設ではボランティアが片付け作業などをしており、健康被害が懸念される。ボランティアが、被災地で安全に活動するために必要なことは。


東京新聞HP

能登の被災地で「アスベスト」が知らない間に…危険と隣り合わせのボランティアより引用




アスベスト曝露リスクの認識不足が引き起こすもどかしい状況


震災時のアスベスト曝露リスクについては、ボランティアへ赴く側も、受け入れる側も、石綿の危険性についての認識が不足していることが、意図しない曝露を引き起こす一因になっていると感じました。どちらの立場も「被災地のために」と良かれと思って活動しているだけに、この状況には非常にもどかしい思いがいたします。

 

お話を伺いながら、自分自身や周りの大切な人を守るためには、「正しい知識を得て、正しく対処する」ことが何より重要だと痛感しました。また、そうした知識を伝え、知るための場所がもっと必要であるとも感じました。現状を改善するために尽力されている方々がいらっしゃることを知り、私もEFAの一員として、正しい情報を適切に伝えていかなければならないと強く思いました。




学習会では、最初に愛知教育大学健康支援センターの榊原洋子・特別准教授が「アスベストって何?アスベストの見分け方」をテーマにミニ講義。榊原さんは石綿が実際にどのようなものなのか、顕微鏡で参加者に見せた。

 

続いて、熊本学園大学の中地重晴教授が「災害とアスベスト問題~阪神淡路大震災から能登半島地震」と題し、阪神淡路の石綿飛散について振り返り、「災害の2次被害として、解体作業、廃棄物仮置き場などからのアスベスト飛散による健康被害が起きないよう、対策を取る必要がある」「アスベストの危険性をボランティアや住民に知らせていく必要がある」などと指摘。また、能登の解体現場でアスベスト飛散をどう減らしていくのかといった課題に対し、「解体業者任せにするのではなく、行政の関与が必要」と訴えた。

 

中皮腫・じん肺・アスベストセンターの永倉さんは輪島、七尾、珠洲の被災建築物から石綿が確認された事例を詳細に紹介。ボランティアらに「吹き付け材があったら、その建物に近づかない」「吹き付け材がなくても、壁、天井等の破砕作業に近づかない」「重機作業の近くでは活動を避ける」などと注意を促した。


NPO法人 ひょうご労働安全衛生センターHP

能登半島地震の被災地でボランティア向けアスベスト学習会を開催より引用




また、今回で初開催から会場となっていた東京科学大学大岡山キャンパス講堂での開催は最後となり、長年尽力された村山先生が東京科学大学(旧東京工業大学)をご退官されるとのことです。次回からはまた新たな展開になるとのことですので、その点も楽しみにしつつ、来年もぜひ参加したいと思います。

 

以下に、今回の研究会のプログラムを掲載いたします。ご興味のある方はぜひご確認いただき、次年度以降の参加を検討してみてはいかがでしょうか。



石問研プログラム案(2026.1.31現在)


1月30日(金)

1.既存アスベストの調査と分析(1)(伴丈 修)

・第1回アスベスト分析ラウンドロビンテストの報告:伴丈 修(アスベスト分析ラウンドロビンテスト委員会)

・X線回折装置と光学顕微鏡による定性分析結果の不一致事例と補助分析の活用:大原 祐樹(アスベスト調査分析株式会社)

・人工知能(AI)モデルを用いた大気中繊維状物質計数の迅速化検討(その4):山城 勇人(日本エヌ・ユー・エス株式会社)

 

2.医学・医療(1)(名取 雄司)

・小説「風呂の守り」の執筆を通して私に起こった変化:玉田 崇二

・石綿検診にみる胸膜肥厚多発について:広瀬 俊雄(仙台錦町診療所産業医学検診センター)

・「屋外工」におけるアスベスト粉じんばく露-1988年実施の三重県建設労働組合員対象の質問紙調査から-:久永 直見(名古屋市立大学)

・走査型電子顕微鏡を用いた肺内石綿小体・繊維計数について:松井 秀基(タツタ環境分析センター)

 

3.医学・医療(2)(名取 雄司)

・国際中皮腫研究会(IMIG)報告:藤本伸一(岡山労災病院)

 

4. 国際会議報告

・ISO/TC146/SC3/WG1国際会議参加報告:小沢 絢子(株式会社EFAラボラトリーズ)

・米国材料試験協会(ASTM)主催「アスベスト課題に関するRook会議」参加報告:飯田 裕貴子(株式会社環境管理センター)

 

5. 既存アスベストの管理・除去・完了検査(亀元 宏宣)

・大阪市中央卸売市場の石綿除去工事の安全と、全国卸売市場:伊藤 泰司(新生大阪アスベスト対策センター)

・第三者機関によるアスベスト除去工事完了検査等業務について(その2):齊藤 進(株式会社環境科学開発研究所)

・スレート波板の劣化による降雨に伴うアスベスト散逸実態の把握:中島 寛則(名古屋市環境科学調査センター)

 

6.国の取り組み

・大気汚染防止法に基づく石綿飛散防止対策について:環境省

 

7.災害・廃棄物(寺園 淳)

・阪神・淡路大震災における石綿被害の可能性:中部 剛(フリーライター)

・阪神大震災からのアスベスト対策の教訓と検証:中地 重晴(熊本学園大学)

・能登半島地震を踏まえた災害時の石綿飛散防止と廃棄物対策の課題:寺園 淳(国立環境研究所)

 

8.ポスターセッション

・相変わらず改善されない胸膜中皮腫や肺癌に関する労災保険制度の問題点:岡部 和倫(ベルランド総合病院)

・相変わらず改善されない胸膜中皮腫や肺癌に関する石綿健康被害救済制度の問題点:岡部 和倫(ベルランド総合病院)

・それぞれのアスベスト禍:古川 和子(アスベスト患者と家族の会 連絡会)

・レーザクリーニング技術を用いた石綿含有建材除去の試み:川村 宗範(NTT株式会社)

・事前調査報告の実態と改善のために:伊藤 泰司(新生大阪アスベスト対策センター)

 

技術展示

・「アスベストコアサンプラーACS」「試作サンプラービット採取径 30 ㎜」及び「アスベスト対応充電式集塵機 Boostix 36V」。

 

 

1月31日(土)

9. 既存アスベストの調査と分析(2)(亀元 宏宣)

・受電用キュービクル設備における石綿事前調査の手法と実務:杉本 敏文(オフィス・シダーグリーン(愛知県名古屋市))

・アスベストコアサンプラーの有効性と採取径30㎜の実証試験について:竹俣 真伸(株式会社コバルテック)

・アスベスト繊維の屈折率測定 迅速なベッケ線彩色法の導入:小沢 絢子(株式会社EFAラボラトリーズ)

・アスベスト分析調査者の視点での現在の分析法の問題点:板野 泰之(大阪市市立環境科学研究センター)

 

10. 教育・地域の取り組み(外山 尚紀)

・災害ボランティアに向けたアスベスト学習会の経験からアスベスト教育を考える:榊原 洋子(愛知教育大学)

・「曖昧なリスク評価」と「信頼性を欠く精度管理」:上田 進久(NPO ストップ・ザ・アスベスト,兵庫県保険医協会環境公害対策部)

 

11. 石綿除去現場の実情と法規制(村山 武彦)

・石綿除去現場の実情にみる効き目のある法規制の必要性:北見 宏介(名城大学法学部)

・建築物の解体現場周辺に居住する人々の健康リスク:村山 武彦(東京科学大学)

 

12. 社会科学からみたアスベスト問題(名取 雄司)

・ストック型災害としてのアスベスト被害― 四大公害と連続しながらも異なる社会的災害の構造 ―:阪本 将英(専修大学)

・政策的解決過程において見えてきた社会学的課題:堀畑 まなみ(桜美林大学)

 

13.アスベスト問題をめぐる政策(南 慎二郎)

・国鉄元職員の遺族及びJR元職員の遺族間における救済の格差:斎藤 洋太郎(アスベスト患者と家族の会連絡会)

・忘却:藤林 秀樹(一般社団法人 Hi-jet アスベスト処理協会)


石綿問題総合対策研究会HP 第14回研究会ページより引用




まとめ


今回の研究会を通して改めて強く感じたのは、「知らないうちに大切な人を危険にさらしてしまう」という状況を、何としても防がなければならないということです。

 

被災地でのボランティア活動は、本来とても尊い善意によるものです。しかし、石綿の危険性という知識が欠けているために、良かれと思って行った行動が、自分自身や未来ある子どもたちの健康を損なう結果につながってしまう。その事実を知り、本当にもどかしく、胸が締め付けられるような思いがいたしました。

 

私たちEFAラボラトリーズも、こうした「生きた情報」を適切に発信し、皆さまが安心して活動できる環境づくりに貢献していかなければならないと、決意を新たにしています。

 

石問研は来年から新たな形での開催となるとのことですが、私自身も研鑽を積み、来年もまた皆さまに学びを共有できるよう努めてまいります。

 

EFAラボラトリーズでは、事業を通じて、皆さまの健康と安全を支えるパートナーとして、引き続き正確かつ迅速な対応を心がけてまいります。

 

ご相談やご依頼などございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。


TEL:03-3263-6055



参考文献:


石綿問題総合対策研究会HP

研究会の概要


石綿問題総合対策研究会HP 研究会の概要

第14回研究会


NPO法人ひょうご労働安全衛生センターHP

災害とアスベスト被災地におけるボランティア活動に関するアンケート調査を開始


NPO法人ひょうご労働安全衛生センターHP

能登半島地震の被災地でボランティア向けアスベスト学習会を開催


東京新聞HP

「能登の被災地で『アスベスト』が知らない間に…危険と隣り合わせのボランティア」

 
 
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